すずらんを添えて 幸せを
「ここって、昔と今を結ぶ地点なのかしら?」

真っ白で何もない空間を二人並んで歩きながら、お姉ちゃんが首を傾げる。

「どうなんだろう。天国と現世を結ぶ場所でもある気がする」

私の言葉に、お姉ちゃんも「確かに」と頷く。

どこまで続くのか、どこに繋がっているのかも分からない。

踏みしめる足元も、なんたがふわふわと軽く感じられた。

「それで、これからどうするの?蘭」

「やることは二つよ。あの女の人に、私達を奪おうとしないでってお願いする。あとは…」

私はお姉ちゃんを見つめてきっぱりと告げる。

「必ず尊を見つけて、三人で無事に帰る」

うん、とお姉ちゃんも、真剣な眼差しで私の手を握りしめた。

「蘭、またあの女の人に話しかけよう。私も一緒にやる」

「分かった」

私達は立ち止まって向かい合い、互いの両手を握りながら目を閉じた。

「どうか姿を見せて。話を聞かせて。あなたは私達を探しているのでしょう?」

私の言葉に、お姉ちゃんも続ける。

「私達、二人であなたに会いに来ました。あなたも私達に会いたかったのではないですか?」

すると、サーッと風が吹き抜けた感覚の後、再び女性が姿を現した。

私とお姉ちゃんは目を開けて、片方の手を繋いだまま女性に向き直る。

「あなたは…誰?私達のご先祖様なの?」

お姉ちゃんが尋ねると、女性は優しそうに微笑んだ。

「私はあなた達の母親よ。あなた達は私の娘」

え?とお姉ちゃんは怪訝そうに聞き返す。

「そんなはずないわ。だって、あなたとは住む時代も世界も違うでしょう?」

私はお姉ちゃんが話すのを聞きながら、ふと壁に彫られていた絵のことを思い出す。

「もしかして、あなたにも娘が二人いたのね?」

私が口を開くと、女性は「そうよ」と頷いた。

「あの洞窟の壁に絵を彫ったのは、あなた?」

「いいえ、あなた達よ」

どういうこと?と、お姉ちゃんは眉を寄せる。

でも私は、なんとなくそれは本当のような気がしていた。

(この女性と二人の娘さん。三人で洞窟に来て、壁にお子さんが絵を彫った)

その光景を、なぜだかすんなりと思い描ける。

「もしかして…。その後あなたはお子さんと離ればなれになってしまった?」

私がポツリと呟くと、女性はハッとしたように目を見張り、ポロポロと涙をこぼし始めた。

「あの日。だんだん寒くなってきたあの年の冬。私は娘達と洞窟に遊びに来ていた…」

静かに語られる話に、私とお姉ちゃんはただ黙って耳を傾けていた。
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