すずらんを添えて 幸せを
いつものように山登りを楽しみ、寒さをしのげる洞窟で遊んでいると、娘達は石を拾って壁に絵を彫り始めた。

「これ、お母様と私達ね」

そう言って二人が絵を描くのを微笑ましく見ていると、突然ゴーッと凄まじい音がして岩が崩れ始めた。

慌てて娘達に覆い被さったが、大きな岩が頭や背中に降り注ぎ、意識を失ってしまう。

再び目が覚めた時、そこには世にも恐ろしい光景が広がっていた。

空を覆うような噴煙と、真っ赤な火柱…

火の玉や噴石、大量の噴出物が容赦なく降り注ぐ。

急いで娘達をかばおうとして、ハッとする。

さっきまですぐそばにいた二人が、どこにもいなかった。

大声で名前を呼び、岩を手でかき分け、地面に這いつくばって探し回る。

「危ない!逃げろ!」

近くにいた人に無理やり腕を引かれて、物陰に隠れながら避難する。

「待ってください、娘達が!」

「探すのはあとじゃ!とにかく今は逃げんと!」

「いや!お願いです、あの子達を助けてください!」

泣き叫ぶ声は、轟音にかき消される。

目の前に広がる地獄のような景色の中を、ただひたすら泣きわめきながら、誰かに腕を掴まれたまま逃げた。

2週間経ってようやく山は落ち着きを取り戻したが、荒れた山肌をどんなに探し回っても、娘達は見つからなかった。
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