すずらんを添えて 幸せを
「ここって、天国なのか?」

「いや、違う。天国へ行く前の待ち合い場だ」

「待ち合い場?」

「ああ。大事な人があとから来るのを待って、それから一緒に天国に行く為のな」

それはつまり、父さんは母さんを…

そう考えていると、父さんは笑って俺を見た。

「心配するな。美月にいい人が出来たら、俺は心置きなく先に行くよ。お邪魔はしない」

「ほんとに?」

「ああ、もちろん…って、考えただけでも泣けてくる!うっ…」

「はぁ、やっぱり」

俺はまたもや大きなため息をついた。

「尊、お前にも大事な人がいるだろう?いいか、絶対に手を離すな。温もりを感じられるのがどんなに幸せなことか。そして一緒にいられるありがたさも、決して忘れるなよ」

「ああ、分かった」

俺がしっかり頷くと、父さんはまた笑顔に戻る。

「ほら、待ち人来たる、だぞ」

え?と父さんの視線の先を追うと、真っ白な空間にぼんやりと2つの人影が浮かび上がった。

「…尊ー!」

この声は…

「蘭!!」

俺は一気に走り出す。

「蘭!」

「尊!」

両腕を伸ばし、胸に飛び込んできた蘭をしっかりと抱きとめる。

「蘭、良かった。どこも平気か?」

「うん。尊は?ケガしてない?」

「大丈夫だ」

「良かった」

互いの温もりを確かめ、幸せを噛み締めてから、そっと身体を離す。

「尊くん、蘭を助けてくれてありがとう」

「鈴ちゃん!体調はもう大丈夫なの?」

「ええ、すっかり元気。それより、その…。こちらの方は?」

鈴ちゃんの戸惑う声に、俺は、ああ、と父さんを振り返る。

「二人は覚えてないよね。この人は…」

「尊のお父さんね?写真とそっくり」

蘭が確信したように言う。

「えー、覚えててくれたの?嬉しいな」

父さんは一気に目尻を下げて、にこにこと二人を見る。

「大きくなったなぁ。鈴ちゃんも蘭ちゃんも、すっかり綺麗なお姉さんになって」

「父さん、どっちがどっちか分かるのか?」

「ああ、分かるよ。もちろん双子だからよく似てるけど、鈴ちゃんはどちらかと言うと目がスッと切れ長なんだ。蘭ちゃんはくりっとしてる。それに鈴ちゃんの髪は真っ直ぐストレートで、蘭ちゃんはふわっとした髪質だからな」

「うげっ、キモッ!ストーカーか?」

「なんだとー、尊!父さんに向かってなんて口をきくんだ!」

「わー、分かったよ。ごめん、離せって」

首に回された父さんの腕を解くと、鈴ちゃんと蘭はポカンとしていた。
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