すずらんを添えて 幸せを
「あの、普通にしゃべってるけど、本当に尊のお父さんなの?」

控えめに蘭が聞いてくる。

「そうだよ。君達がまだ1才の時にいなくなったから覚えてないだろうけど、生まれた時からそれはもう、二人とも可愛くて仕方なくてね。暇さえあれば抱っこさせてもらってたよ。うさぎのぬいぐるみをプレゼントしたら、二人とも気に入ってくれてね。にっこり笑って胸に抱えてた。可愛かったなぁ」

「あ、あのうさぎ?!」

鈴ちゃんと蘭が同時に声を上げる。

「あのぬいぐるみ、今も大事にベッドに置いてあります」

「そうなのかい?いやー、嬉しいな」

「おじさまがプレゼントしてくださったのですね?その節はありがとうございました」

「これはこれは。ご丁寧に」

頭を下げる鈴ちゃんに、父さんも笑いながらお辞儀をする。

すると蘭が真剣に口を開いた。

「あの…」

「ん?どうかした?蘭ちゃん」

「はい、あの。私、おじさんと握手出来ますか?」

「え?」

何度か瞬きをしてから、父さんはまた満面の笑みを浮かべる。

「ああ、大丈夫だよ。透明人間ではないからね」

「そうなんですね!」

蘭は父さんに近づくと、何を思ったのか握手ではなくハグをした。

一瞬面食らった父さんも、嬉しそうに蘭を抱きしめる。

「おじさん、私が赤ちゃんの頃、たくさん抱っこしてくれたんですよね?」

「ああ、そうだよ。可愛くて可愛くて、もう自分の子どものように思ってた。こんなに素敵な女の子に成長したんだね。尊の面倒も見てくれて、本当にありがとう、蘭ちゃん。鈴ちゃんも」

二人と交互に固いハグを交わしてから、父さんは改めて感慨深く俺達を見つめる。

「君達に会えて良かった。こんな日が来るなんて、夢にも思わなかった」

「俺も」

「私達もです」

笑顔で互いに頷き合う。

「これからも君達を見守っているよ。尊、たまには俺のことも思い出すんだぞ?次にお前の姿が見えた時、腹がぼっこりの中年オヤジになってたら許さんからな」

「はいはい。年に1回は話しかけますよ」

「少なっ!」

父さんのツッコミに俺は思わず笑い出す。

「ちゃんと報告するよ。大学の卒業や就職も」

「ああ。あと結婚もだぞ?孫の顔も見せてくれよな」

「うーん、それは保証出来ん」

「おい、そんな弱気でどうする?お前は大切な人のすぐ近くにいられるんだぞ?俺なら抱きついたまま、ひとときも離さんわ」

「父さん…。それ、ヤバいやつだから」

あはは!と父さんはおかしそうに笑った。

「さあ、もう行きなさい。ここは君達のいるべき場所じゃない」

父さんは真剣な表情で俺達に、輪になって手を繋ぐよう言った。

「尊、蘭ちゃん、鈴ちゃん。俺はいつだって君達を見守っている。君達に降りかかる災いは、全て俺が防いでみせる。鈴ちゃんの身体も、じきに良くなるよ。だから3人とも安心して、自分の人生を楽しみなさい」

「ああ、ありがとう父さん」

「ありがとう!おじさん」

「ありがとうございます、おじさま」

口々にお礼を言う俺達に微笑むと、父さんは最後に俺の肩に手を載せた。

「尊、母さんを頼んだぞ」

「分かってる」

大きく頷くと、父さんは一歩下がってから両手を広げて何かを念じるようにパワーを溜めた。

ふわりと俺達の身体が浮かび上がる。

「みんな、元気でな」

父さんの声が聞こえたと思った次の瞬間、俺達はスーッと天高く引き上げられていく。

思わず下を見下ろすと、小さくなった父さんが笑顔で手を振っていた。
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