すずらんを添えて 幸せを
その日はまた宿に泊まることになった。

ゴールデンウィークで混み合っていて他に部屋が空いておらず、尊も私達と同じ和室の大部屋に布団を並べる。

夜中にふと目が覚めた私は、そのまま寝つけなくなってしまい、そっと布団を抜け出した。

羽織を着ると窓に近づき、静かに引き戸を開けてバルコニーに出る。

夜空を見上げると、一面に綺麗な星が輝いていた。

その美しさに息を呑み、しばしの間見とれていると、カラカラと引き戸を開ける小さな音がした。

「蘭」

「尊?ごめん、起こしちゃった?」

「いや、俺も起きてたから」

そう言って、尊は私の隣に立つ。

「綺麗だな、星空」

「うん。なんだか別世界。天国みたいだね」

「ああ。でも実際の別世界は真っ白だったけど」

「あはは!確かに。なーんにもなかったしね」

「正確には天国じゃなくて、待ち合い場らしいけどね」

「そうなの?」

「ああ。あとから来る人を待って、一緒に天国へ行く為の待ち合い場だって」

「じゃあおじさんはそこで、おばさんを待ってるの?」

「そうらしいね」

「そう。離れていてもお二人は繋がってるんだね。素敵なご夫婦だな。それにおじさん、若い!かっこいい!あれはおばさんも惚れちゃうわよねー」

「まあ、見た目は33才で止まってるからな。母さんが写真に向かって言ってた。『あなたはいいわよね。私ばっかり老けて不公平!』って」

あはは!と思わず笑ってしまう。

「そんなこと言って、今でもおばさん、めちゃくちゃ綺麗なのにね。きっとモテモテだろうな」

「父さん、それで嫉妬してた」

「へえー?なんだか楽しそう」

「そうか?」

「うん。おじさんもおばさんも、お互いに恋愛の真っ最中って感じで。ずっと心の中で想い合ってるんだね」

「うん、そうだと思う」

私は尊にフフっと笑いかけてから、バルコニーの手すりに両手を載せて、空を見ながら話す。
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