すずらんを添えて 幸せを
第九章 父さんと母さん
「ただいまー。尊、いる?」

ゴールデンウィークが明けて最初の土曜日。

部屋でゴロゴロしていた俺は、玄関の開く音と聞こえてきた声に身体を起こす。

リビングに行くと、母さんが大きなスーツケースをよいしょと床に置くところだった。

旅行雑誌の編集の仕事をしている母さんは、1か月かけてヨーロッパの各地を取材して、ようやく今日帰国することになっていた。

「お帰り。どうだった?海外は」

「うん、忙しかったけど楽しかったよ。尊は?なんかあった?」

「まあ、色々ね」

「ふうん。つまり何もなかったってことね」

「違うよ。本当に色々あったんだ」

へえーと、母さんは意外そうに振り返る。

「じゃあ、美味しいコーヒーでも飲みながら聞かせてもらおうかしら?」

ヘアクリップを外し、ふわっと髪を揺らすと、母さんはニヤリと笑ってキッチンを目で示す。

「はいはい。喜んで淹れさせて頂きますよ」

俺はカウンターの上のコーヒーメーカーのスイッチを入れた。
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