すずらんを添えて 幸せを
「母さんってさ、会社の男性とかに言い寄られたりする?」

カップに口をつけていた母さんは、ゴホッとむせ返った。

「な、何よ急に?」

「うん、まあ。俺の話をする前にちょっと聞いておきたくてさ」

「はあー?いったいどんな話なのよ?」

「まあまあ、いいから。それで?どうなの?」

母さんは、釈然としない表情のまま答える。

「それは、まあ。何人かにそう言われたことはあるわよ」

「それって、つき合ってくれってこと?」

「いや、もうそんなのすっ飛ばして、結婚しようって」

ええ?!と俺は驚く。

「つき合って、じゃなくて、結婚してくれ?」

「まあ、年が年だしね。今さら好きだのなんだの言って恋愛から始めるんじゃなく、とっとと結婚するのが目的なんでしょうね」

「それで母さん、断ったの?」

「当たり前でしょ?OKしてたら、今ここにはいないわよ」

「あの、なんで断ったの?」

すると母さんは、ますます怪訝そうに、はあー?と聞き返してくる。

「ねえ、尊。どうしたの?ドラマか漫画の影響とか?それとも、なんか変な夢でも見たの?」

「いや、夢じゃなくて現実だった」

「だから、何がよ?」

「父さんに会ったんだ」

……………たっぷり10秒。

母さんは文字通り固まった後、おもむろに俺の額に手を当てた。

「熱…は、ないわね。頭を打ったのかしら?それともいつもの寝過ぎで、まだ半分寝ぼけてるとか…」

口元に手をやって、ブツブツとひとり言を呟いている。
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