すずらんを添えて 幸せを
決勝戦の日も、厳しい暑さだった。
プレイボールが午前中なのがまだ救いだが、あっという間に気温は上がる。

私は先輩から借りた楽器をタオルで覆いながら、大事に吹かせてもらっていた。

セカンド楽器と言いつつ、とても吹きやすくて音色もいい。

(やっぱり上手い人が吹くから楽器もいい音色になるのかな?)

そんなことを考えつつ、観客席の一番下でフェンス越しに後ろを見ながら、大きく手を振って指揮をする奏也先輩を見つめる。

試合の行方を真剣な眼差しで追いながら、チャンスが巡ってくると即座に合図を出してチャンステーマの指揮をする先輩は、なんだかとてもかっこいい。

いつも音楽室で隣に座り、綺麗な音色を奏でる先輩は私の憧れだったけど、こうしてみると高校球児に負けず劣らずのかっこ良さだった。

熱意がこもった先輩の指揮に応えて、みんなも精一杯演奏する。

試合は延長戦までもつれ込み、残念ながら逆転サヨナラ負けだった。

観客席の前まで走って来て整列し、ありがとうございました!と涙ながらに挨拶する野球部のメンバーに、私達は惜しみなく大きな拍手を送った。
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