すずらんを添えて 幸せを
第十一章 突然の告白
「よし!じゃあ今日は本番同様に通すぞ」
「はい!」
翌日、尊がイギリスへと出発した日。
音楽室に集まった私達は、顧問の先生の言葉に声を揃えて返事をする。
いよいよコンクールに向けてのラストスパート。
昨日までの野球応援の疲れを気にする暇もなく、みんなで心を一つにして真剣にリハーサルをする。
たとえ何が起こっても、誰がどんなミスをしても指揮は止まらない。
極端な話、演奏がズレてバラバラになってしまっても、どうにかして最後まで続けなくてはいけないのだ。
練習では起こったことのないミスが、本番にだけ起こる。
それは決して珍しくない。
ましてやコンクールともなれば、緊張感は否が応でも高まってしまう。
私はリハーサルだというのに気づけば手に汗を握り、とにかくミスをしないようにと顔をこわばらせて演奏していた。
やがて曲の中間部に差し掛かる。
みんなの音がフッと消え、一瞬の静寂の後、私の隣からまるでその場の空気を包み込むような、優しく温かい音色が響き渡った。
その途端、私は胸をきゅーっと掴まれたような感覚に鳥肌が立ち、涙が込み上げてきた。
(…奏也先輩)
ミスをしないようにと、縮こまって吹く自分の演奏とはまるで違う。
先輩の身体そのものが楽器のように、心の底から奏でるように、先輩の音は私の胸を震わせた。
その音に導かれるように、私も自分の音を重ねる。
私だけじゃない。
他のみんなも、奏也先輩の音に心を重ねて演奏する。
大勢の音は一つになり、壮大な曲へと生まれ変わって解き放たれる。
やがて演奏が終わり、最後の音が空気に溶け込むと、誰もがほっと吐息を漏らした。
先生が、ゆっくりと指揮棒を下ろす。
「…すごかったな、今の」
先生の呟きに、みんなも頷く。
「技術がどうとか、細かいミスがどうとか、そんなの一気に吹き飛ばすような音だった。大事なのはそこだ。人間なんだから、完璧には演奏出来ない。ミスなく音程も正確にってだけなら、機械が自動演奏すればいいんだ。だけどそこに感動はない。人を感動させられるのは、人の演奏だ。それを忘れずに本番に臨もう」
「はい!」
メンバー全員が心を一つに返事をした。
「はい!」
翌日、尊がイギリスへと出発した日。
音楽室に集まった私達は、顧問の先生の言葉に声を揃えて返事をする。
いよいよコンクールに向けてのラストスパート。
昨日までの野球応援の疲れを気にする暇もなく、みんなで心を一つにして真剣にリハーサルをする。
たとえ何が起こっても、誰がどんなミスをしても指揮は止まらない。
極端な話、演奏がズレてバラバラになってしまっても、どうにかして最後まで続けなくてはいけないのだ。
練習では起こったことのないミスが、本番にだけ起こる。
それは決して珍しくない。
ましてやコンクールともなれば、緊張感は否が応でも高まってしまう。
私はリハーサルだというのに気づけば手に汗を握り、とにかくミスをしないようにと顔をこわばらせて演奏していた。
やがて曲の中間部に差し掛かる。
みんなの音がフッと消え、一瞬の静寂の後、私の隣からまるでその場の空気を包み込むような、優しく温かい音色が響き渡った。
その途端、私は胸をきゅーっと掴まれたような感覚に鳥肌が立ち、涙が込み上げてきた。
(…奏也先輩)
ミスをしないようにと、縮こまって吹く自分の演奏とはまるで違う。
先輩の身体そのものが楽器のように、心の底から奏でるように、先輩の音は私の胸を震わせた。
その音に導かれるように、私も自分の音を重ねる。
私だけじゃない。
他のみんなも、奏也先輩の音に心を重ねて演奏する。
大勢の音は一つになり、壮大な曲へと生まれ変わって解き放たれる。
やがて演奏が終わり、最後の音が空気に溶け込むと、誰もがほっと吐息を漏らした。
先生が、ゆっくりと指揮棒を下ろす。
「…すごかったな、今の」
先生の呟きに、みんなも頷く。
「技術がどうとか、細かいミスがどうとか、そんなの一気に吹き飛ばすような音だった。大事なのはそこだ。人間なんだから、完璧には演奏出来ない。ミスなく音程も正確にってだけなら、機械が自動演奏すればいいんだ。だけどそこに感動はない。人を感動させられるのは、人の演奏だ。それを忘れずに本番に臨もう」
「はい!」
メンバー全員が心を一つに返事をした。