すずらんを添えて 幸せを
「あー、蘭。もうすぐだね。緊張してきちゃった」

舞台袖で静かに出番を待つ間、くるみが小声で話しかけてくる。

「どうしよう。私、めっちゃビブラートかけちゃいそう」

「ビブラートじゃなくて、ビビラートってやつだね」

「そう、それ。って、なんか蘭、余裕だね。緊張しないの?」

「うーん、あんまり」

「へえ、いいなー」

くるみがうらやましそうに言うけれど、本当のところ、私は奏也先輩が気になって仕方なかった。

(本番が終わったら、返事しなきゃいけないのかな?でも、なんて?)

ちらりと先輩の姿を盗み見ると、先輩は楽譜を見ながら楽器に指を走らせて運指の確認をしていた。

いつもと変わらない、落ち着いた雰囲気だ。

(いや、まずは演奏に集中しなきゃ)

私は軽く目を閉じて深呼吸した。
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