すずらんを添えて 幸せを
「蘭ー、おめでと!」

マンションに帰り、リビングのドアを開けると、お姉ちゃんが抱きついてきた。

「わっ!あ、ありがと」

「もう、すっごーく上手だった!これは絶対選ばれるって思ったもん。うちの学校の演奏も聴いたんだけど、断然蘭の学校の方が良かったよ」

「そうなんだ。お姉ちゃんの学校は、結果どうだったの?」

「銀賞。だから今日で3年生の先輩は引退だね」

「そっか…」

この間、応援演奏に行った野球部の試合を思い出す。
決勝で破れて敗退した瞬間、3年生の引退が決まった。

それは吹奏楽部も同じだ。

(もし今日、県大会に進めていなかったら、奏也先輩達は明日から部活に来ることもなかったんだ)

そう思えば、まだしばらく先輩達と大好きな曲を演奏出来るのがすごく嬉しい。

「ふふっ、蘭。なんだか幸せそう」

「うん。明日からも先輩達と一緒に練習出来るからね」

するとお姉ちゃんは急に真顔になる。

「ね、蘭。隣に座ってた男の人、蘭の何?」

は?と私は面食らう。

「私の何?って、何?」

「だから、関係よ。あの人、ソロ吹いてたでしょう?ものすごーく綺麗な音で、私もうっとりしちゃったんだけどね。隣の蘭の方に身体向けて、蘭に向かって吹いてる感じだったのよ。あふれ出る蘭への想いが音になってる感じで」

「はいー?どういうことよ」

「なんか…。好きな人に愛のメロディを捧げてるって感じ?とにかく、なんだかあの男の人と蘭にスポットライトが当たってる気がしたの」

いやいやいや、と私は手を振って否定する。

「サックスは楽器を斜めに構えるから、そう見えただけだよ。もちろんスポットライトも当たってないよ?」

お姉ちゃんは、納得いかないとばかりに口を尖らせる。

「うーん…。じゃあ、今度の県大会ではっきりさせるわ。絶対に見逃さないからね!」

「いや、お姉ちゃん。演奏を聴いてね?」

私の呟きは届かなかったようで、お姉ちゃんは腕まくりしながらキッチンで夕飯の支度を始めた。
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