すずらんを添えて 幸せを
翌日も朝から練習が始まった。

「まずは通してみるぞ」

「はい!」

私は心を落ち着かせ、音楽に身を委ねながら曲の世界観に浸っていく。

奏也先輩のソロになり、目を閉じて全身で音を感じ取ると、私は深くブレスを取り、想いを載せてたっぷりと歌い上げた。

曲が終わり先生が腕を下ろすと、誰からともなくため息が漏れる。

前列のフルートパートの席に座っているくるみが、潤んだ目で頬を赤くして私を振り返った。

ん?と私が目で尋ねると、くるみは慌てて首を振って先生に向き直る。

「お前達、感動しただろ?」

ニヤリと笑う先生に、みんなが頷いた。

「もう一瞬、どこで誰が吹いてるの?って思っちゃった」

「そうそう。雰囲気がガラッと変わって」

「引き込まれて、思わず次、入りそこねるとこだった」

「俺も!オチるかと思った」

「私、胸がいっぱいになって、涙出そうになっちゃったわよ」

「えー、私、出ちゃった」

「あはは!」

ワイワイ話し出すみんなに、私は、なんだ?と首をかしげる。

やがて先生がみんなを見渡して声を張った。

「いいか、この曲の軸は奏也と蘭の掛け合いだ。この世界観をみんなでしっかり共有して作り上げていこう」

「はい!」

全員のベクトルが同じところに向かうのを感じる。

私達の演奏は間違いなく、地方大会の時よりも遥かに洗練されていた。
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