すずらんを添えて 幸せを
会場に着くと時間を確認しながら準備をし、音出しをする。

舞台袖で出番を待ち、いよいよ舞台に移動した。

広いホールは見える景色も違い、いつもはすぐ近くに感じるメンバーも距離が遠くて心細い。

だけど隣には、いつもと変わらない奏也先輩がいる。

私は先輩の力強い眼差しに励まされ、互いに頷き合った。

緊張でこわばっていた身体は、演奏が始まるとすぐにいつものように解きほぐれた。

何度も練習し、身体に染み込んだ曲。
それを今日は、このホール中に響かせるんだ。

やがて中間部に差し掛かり、奏也先輩のソロは、音響の良いホールの隅々まで広がっていく。

大きく息を吸ってその音を受け止めてから、私も楽器を構えた。

先輩の音に自分の音を重ね、告げられる想いの強さに応えるように、胸いっぱいに奏でる。

二人の想いが大きな盛り上がりを見せた後、全員の音が重なって壮大な響きとなる。

そのままラストまで、客席を圧倒するような音圧で支配すると、最後の1音が余韻を残して空気に溶けた。

静けさが戻る。
次の瞬間、割れんばかりの大きな拍手が起こった。

先生の合図で私達は立ち上がる。
客席を見ると、感動したように拍手をしてくれる観客の中にお姉ちゃんがいた。

(やだ、お姉ちゃん。絶対に泣いてるな)

大きく拍手をしながら唇を噛み締め、嬉しいのか悲しいのか、微妙な表情なのが、遠目にも分かった。

私はふっと頬を緩める。
隣から視線を感じて目を向けると、奏也先輩も同じように微笑んでいた。
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