すずらんを添えて 幸せを
会場が遠い為、この日は貸し切りバスで部員揃って移動する。

暗黙の了解のように、私は奏也先輩の隣の席だった。

二人で楽譜を広げて、最後の確認をする。

降り立った決戦の地。
そこにはそうそうたる全国大会常連校がいた。

雰囲気に呑まれて足を止める私に、奏也先輩が声をかける。

「相手を意識する必要はない。俺達は俺達の音楽をやるだけだ」

はい、と私は大きく頷く。

いつものように準備と音出しをしてから、舞台袖に移動する。

すると奏也先輩は、私に右手を差し出した。

「蘭、俺を東関東まで連れて来てくれてありがとう」

思わぬ言葉に、私は戸惑う。

「あの、先輩、何を?」

「ここまで来られたのは、蘭のおかげだ」

「まさか、そんなこと。先輩の実力です」

「いや、俺がここまで気持ち良くソロを吹けるのも、蘭の音があったおかげだ。最高の相棒を見つけた気分だった。今日も頼むな。ありったけの想いを込めて、このホールに俺達の音を響かせよう」

「先輩…」

私は差し出された右手をしっかりと握る。

「はい、よろしくお願いします」

「ああ」

緊張で身体がこわばることもなかった。
むしろ身体中に力がみなぎる。

私はこのメンバーとこの舞台に立てることに感謝しながら、先輩の音に自分の音を重ねて精いっぱいやり切った。
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