すずらんを添えて 幸せを
第十五章 すずらんの贈り物
次の日。
部活から帰ってくると、私は制服のまま尊のマンションを訪れた。

尊はまだ帰っていないらしく、おばさんが出迎えてくれる。

「尊、もうすぐ着くって。蘭ちゃん、和食たくさん作ったから、食べていってね」

「はい、ありがとうございます」

私はリビングに入ると、すぐにチェストの前に正座した。

「おじさん、こんばんは」

『こんばんは、蘭ちゃん。おっ、それ高校の制服?可愛いなー』

「あれ?おじさん、見たことなかったっけ?」

『ないよー、初めて見た。リボンのセーラー服なんだね、蘭ちゃんよく似合ってる。いやー、こんなに可愛い女子高生の蘭ちゃん、モテるでしょ?尊のやつ、心配だろうなー』

おじさんの言葉に、私はこの間のお姉ちゃんのセリフを思い出した。

「あんなに熱い抱擁見せつけられて、つき合ってませんなんて誰が信じるのよ?今度おじさまにも聞いてごらんなさい。絶対私と同じように思ってるわよ」

それはつまり、おじさんも私と尊が、その…そういう仲だと思ってるってことだろうか。

今のおじさんの口ぶりでは、やはりそうかもしれない。

「あの、おじさん」

『ん?なんだい?』

私はチラリとキッチンにいるおばさんに目を向けてから、声には出さずに心の中でおじさんに話しかけた。

(おじさんも、私と尊のこと、その…つき合ってる、とか思ってる?)

『は?!何その、まさかそんなこと思ってませんよね?的な聞き方は』

(やっぱり思ってるの?)

『え!ってことは、まさかつき合ってないの?』

(うん、つき合ってないよ。そんな話になったこともないし)

『うそだろ?告白も?』

(うん。されたことない)

するとおじさんは、しばし無言になった後、
『あのヤロー!』と、恐ろしく低い声で呟いた。

『蘭ちゃん、尊呼んで!今すぐここに正座しろ!って』

(それがまだ帰って来てないの)

『バカ者!蘭ちゃん置いて、どこで何してやがる!』

(ちょっと、おじさん。落ち着いて…)

『これが落ち着いていられる?蘭ちゃんが、誰か他の男に取られたらどうするんだよ。蘭ちゃん、こんなに可愛いんだぞ?言い寄られるに決まってるだろ』

(そんな、おじさん私、言い寄られたりしないから)

『うそだよ。誰にも?』

(誰にも…って言うか、まぁ、一人以外には)

『ってことは、誰かに言い寄られたんだね?尊のバカー!お前がボヤボヤしてるから、他の男に…』

その時、玄関から「ただいまー」と尊の声がした。

「あっ、帰って来たみたい」

思わず声に出して振り返る。

大きなスーツケースを手に、尊がリビングのドアを開けて姿を現した。
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