すずらんを添えて 幸せを
「お、蘭。もう来てたんだ」

「うん、お帰りなさい」

「ただいま」

おばさんもキッチンから、お帰りーと顔を出す。

久しぶりの再会を喜ぶ雰囲気の中、私の耳には『蘭ちゃん!尊、帰ってきたの?すぐ呼んで!』とおじさんの声がする。

「あ、は、はい!あの、尊」

「ん?何」

「おじさんが呼んでるの。すぐに来いって」

「は?帰って来て早々なんだよ」

尊は不満げに、私が譲った場所にあぐらをかいて座る。

「ただいま。何?なんか話?」

そう言った途端、尊は思い切り顔をしかめた。

「いって!デッカイ声出すなよ。頭の中がキーンってなったわ」

耳を指で塞ぎながら、尊はしかめっ面のままおじさんの写真を凝視している。

やがて驚いたように私を振り返った。

(ん?何だろう)

首をひねってみせると、尊は私の顔を見ながらじっとおじさんの言葉を聞いているようだった。

しばらくすると、またおじさんの写真に向き直る。

「分かったよ!ちゃんと話すから。うるさいってば!頭が割れるだろ。ハイハイ、分かりました!」

苛立ったように写真に向かって訴える尊に、おばさんがプッと吹き出す。

「やだわー、思春期の息子と親父の親子喧嘩って。なんだか不毛ね」

私が、はあ…と気の抜けた返事をしていると、尊がいきなり立ち上がった。

「蘭、ちょっと来て」

「え?!」

有無を言わさぬ態度で私の手を握ると、自分の部屋へと連れて行く。

「ごゆっくりー」と背後からおばさんの声がした。
< 67 / 75 >

この作品をシェア

pagetop