すずらんを添えて 幸せを
第十六章 死が二人を分かつとも
𓂃𓈒𓂂⚝ 時は流れて ⚝𓈒𓂂𓂃


「お姉ちゃん、早く!」

「ま、待って。息切れが…。ちょっと休憩…」

「もう、お姉ちゃん。年なの?」

「何言ってるのよ、双子に向かって」

「あはは!確かに」

あれから7度目のすずらんの季節がやって来た。

私とお姉ちゃんは交代で車を運転し、藤さんに会いに富士山に来ている。

ダジャレみたいだけど、毎年恒例の大事な決まりごとだ。

22才になった私達は、2か月前に大学を卒業し、『ミュゲ』という小さなフラワーショップを開いた。

大学の4年間、フラワーショップでアルバイトをして、二人でお花について学び、資金を貯めた。

お姉ちゃんのアレンジはセンスが良く、店頭に並べる小ぶりの花束は、いつもあっという間に売り切れる。

他にも、結婚式のブライダルブーケや、カフェのフラワーアレンジメントも、お姉ちゃんご指名で依頼がくるほどだった。

私は主に店頭での接客と、お花に関する雑貨のオンラインショップを担当していた。

4年間お世話になったアルバイト先の店長は、二人でお店を開くことを応援して快く送り出してくれた。

まだ始めたばかりだけど、滑り出しは順調で、何よりお姉ちゃんと好きなことを仕事に出来てとても楽しい。

今日は藤さんにその報告と、もう1つ大事なお知らせがあった。

私はもうすぐ結婚する。
相手はもちろん、尊だ。

想いを伝え合ったあの日から、私達はゆっくりと時間を共にして、恋人としての絆を深めてきた。

尊は大学を卒業後、外資系企業の経営コンサルタントの仕事をしている。

私達がフラワーショップを開く際も、頼もしいアドバイスをしてくれた。

そうそう。
奏也先輩は見事音楽大学に合格し、今はプロのサックス奏者としてコンサートを開いたり、レッスンの講師をしている。

先輩が高校を卒業する前の定期演奏会で、私は、大切な人がいるので先輩とはおつき合い出来ませんと断った。

先輩はちょっと寂しそうな顔をしてから、それでも蘭に感謝する気持ちは変わらない。今までありがとう、と笑ってくれた。

今でも時々先輩のコンサートを聴きに行くけれど、ステージの上の先輩はなんだか芸能人のようなオーラがあり、声をかけるのをためらってしまう。

先輩はそんな私に、よっ!久しぶり、と変わらない笑顔を向けてくれる。

そして私の結婚披露宴では、特別に演奏してくれることになっていた。
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