すずらんを添えて 幸せを
「私達が生まれるよりも前に、お母さんはお父さんと富士山のふもとにドライブに来たんだって。5月のまだ登山シーズン前で、もちろん登山するつもりもなくて、車を駐車場に停めて少し辺りを探索してたんだって。林の中を歩いていたら、急に濃い霧が発生して、気づいた時には二人ともはぐれてしまったらしいの」
尊はじっと私の話に真剣に耳を傾けている。
「周りに誰もいないし霧で何も見えない。お母さんは必死になってお父さんを探したけど、そのうちにどこから来たのかも分からなくなって、完全に道に迷ってしまったの。だんだん日が暮れて真っ暗になって、もう帰れないのかもしれないって心細くて泣いたんだって。神様、どうか助けてくださいって必死にお願いしてたら、ぼんやりと道端にすずらんの花が咲いているのに気づいて、それをたどって歩いて行ったら、川にたどり着いたって」
「すずらんをたどって川に…」
「そう。喉が渇いていたお母さんは、その川の水を飲んだんだって。そして、神様ありがとうございますって両手を組んでお礼を言ったの。そしたら、声が聞こえてきたんだって」
「声?それって、誰かが呼んでる声?」
「ううん。心の中に聞こえてきた、神様のお返事だってお母さんは言ってた。『あなたとあなたの子どもを無事に帰します。その代わり、いつか一人を私に返して』って」
「それって…」
尊は息を呑んで目を見開く。
「まさか、鈴ちゃんはそれで…」
私は視線を落として口をつぐんだ。
この話は、私が何度もお母さんを問い詰めてようやく聞き出した話だった。
「どうしてお医者様はどこも悪くないって言うのに、お姉ちゃんは何度も倒れてしまうの?」と、事あるごとに私はお母さんに尋ねていた。
お父さんは「大丈夫、そのうち治るよ」と言っていたけれど、お母さんはいつも辛そうな表情だったから。
「お母さん、何か知ってるんでしょう?教えて!」
そしてようやく1年前にこの話をしてくれたのだった。
お母さんは、その時心に聞こえてきた言葉の意味は分からなかったが、そのすぐあとにお父さんが見つけ出してくれて、無事に帰宅した。
半月後に妊娠に気づいて病院に行き、告げられた言葉に衝撃を受ける。
「おめでとうございます。双子の赤ちゃんですよ」と。
『あなたとあなたの子どもを無事に帰します。その代わり、いつか一人を私に返して』
この言葉の意味は、もしや…
お母さんは妊娠中も、ずっと不安な毎日を過ごすことになる。
無事に生まれてホッとしたのも束の間、双子の姉の方だけは、大きくなるにつれて発作で倒れることが増えた。
病院で診てもらっても、原因は不明だと言われる。
そのうちにお母さんは、あることに気づいた。
お姉ちゃんは、富士山の辺りで地震が起きると発作を起こすことに…
尊はじっと私の話に真剣に耳を傾けている。
「周りに誰もいないし霧で何も見えない。お母さんは必死になってお父さんを探したけど、そのうちにどこから来たのかも分からなくなって、完全に道に迷ってしまったの。だんだん日が暮れて真っ暗になって、もう帰れないのかもしれないって心細くて泣いたんだって。神様、どうか助けてくださいって必死にお願いしてたら、ぼんやりと道端にすずらんの花が咲いているのに気づいて、それをたどって歩いて行ったら、川にたどり着いたって」
「すずらんをたどって川に…」
「そう。喉が渇いていたお母さんは、その川の水を飲んだんだって。そして、神様ありがとうございますって両手を組んでお礼を言ったの。そしたら、声が聞こえてきたんだって」
「声?それって、誰かが呼んでる声?」
「ううん。心の中に聞こえてきた、神様のお返事だってお母さんは言ってた。『あなたとあなたの子どもを無事に帰します。その代わり、いつか一人を私に返して』って」
「それって…」
尊は息を呑んで目を見開く。
「まさか、鈴ちゃんはそれで…」
私は視線を落として口をつぐんだ。
この話は、私が何度もお母さんを問い詰めてようやく聞き出した話だった。
「どうしてお医者様はどこも悪くないって言うのに、お姉ちゃんは何度も倒れてしまうの?」と、事あるごとに私はお母さんに尋ねていた。
お父さんは「大丈夫、そのうち治るよ」と言っていたけれど、お母さんはいつも辛そうな表情だったから。
「お母さん、何か知ってるんでしょう?教えて!」
そしてようやく1年前にこの話をしてくれたのだった。
お母さんは、その時心に聞こえてきた言葉の意味は分からなかったが、そのすぐあとにお父さんが見つけ出してくれて、無事に帰宅した。
半月後に妊娠に気づいて病院に行き、告げられた言葉に衝撃を受ける。
「おめでとうございます。双子の赤ちゃんですよ」と。
『あなたとあなたの子どもを無事に帰します。その代わり、いつか一人を私に返して』
この言葉の意味は、もしや…
お母さんは妊娠中も、ずっと不安な毎日を過ごすことになる。
無事に生まれてホッとしたのも束の間、双子の姉の方だけは、大きくなるにつれて発作で倒れることが増えた。
病院で診てもらっても、原因は不明だと言われる。
そのうちにお母さんは、あることに気づいた。
お姉ちゃんは、富士山の辺りで地震が起きると発作を起こすことに…