サクラジンクス

千束が渡してくれたサンドイッチに暖は口をつける。ツナときゅうりのサンドイッチのようだが、緊張のせいで味は全くわからない。

「うま〜！」

たまごサンドを頬張りながら千束が笑顔を見せる。その笑顔に暖が見惚れていると、サンドイッチを食べ終えた千束が不意に真剣な表情になった。

「そういえば春梨くんは知ってるかな？この桜の木のジンクス」

「いえ、知りません」

本当は暖はこの桜の木のジンクスを知っていた。クラスの女子生徒たちが話しているのを聞いたことがあったためである。しかし嘘を吐いた。

「満開の時、この桜の木の下でキスをすると二人は永遠に結ばれるんだよ」

「そうなんですね」

暖は驚いたフリをする。その頭の中は、何故彼女がこんなことを言い始めたのかという疑問が渦巻いていた。暖が知る千束は現実的な考えを持つ人で、ジンクスや占いと言った類いのものは信じないタイプの人間である。

「珍しいですね。先輩がそんなこと言うなんて」