エリート弁護士は生真面目秘書を溺愛して離さない
 女の子らしい愛衣とは対照的に、由依の方は背が高くきつめの顔立ちで、可愛いなどという言葉とは無縁だった。愛衣は母似、由依は父似で、母が妹ばかり可愛がったのはそんなところにも理由があるのかもしれない。

 鞘白はまじまじと由依を眺めながら、濃淡のない口調で言う。

「だが男の趣味は似通っているのか? 小鳥遊は妹に恋人を奪われたようだった」
「うっ」

 知らないフリはしてくれないらしい。あらためて示されると酷い状況だ。上司に見られたくない現場ランキング、堂々の一位。

 由依は力なく首を振り、頬を歪めて笑った。

「いいんですよ、もう終わった話ですから。私は次の恋を探します」

 自分で言ってて強がりだと思った。まだ胸は痛くて、生々しく開いた傷口からだらだらと血が流れている。

 きっとそれは、怒りも悲しみも、愛も思い出も自尊心もごた混ぜにした血よりも濃い何か。心臓が一つ脈打つたび、大切なものがどんどん失われていく。

 目の奥がじわりと熱くなって、慌てて目元を拭った。鞘白はぐすっと鼻を鳴らす由依に視線をひたと据えている。端正な顔は白々としていて何を考えているのか読めないが、眼光は鋭く、由依の虚勢など見抜いているに違いない。

 やがて鞘白は納得したように一つ頷き、何でもないように呟いた。

「——なら、俺と付き合わないか」
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