エリート弁護士は生真面目秘書を溺愛して離さない
 人々の進路を塞ぐ形になって、それでも先に進めないで思わず鞘白を見上げる。彼はもうずっと真面目な顔をして、由依を見つめていた。

「好きだよ、由依」

 端的な告白に息を呑む。少し掠れた声音は恐ろしいほど真摯で、疑いようもなく彼が本気なのだと伝えてきた。

「そうでなければ追いかけたりしない。憐れみを乞うのは俺の方だ。初めは心が伴っていなくて構わない。だが、由依に俺を好きになってもらうチャンスをくれ」

 こちらを射抜くような真剣な視線に絡め取られ、由依は身じろぎ一つできない。心臓がさっきまでとは異なる鼓動で騒ぎたつ。胸底から何か温かなものが湧き出る感覚があって、干からびかけた心に染み透っていった。

 今日は人生で一番大変な誕生日だった。恋人にデートに誘われ、かと思えば妹に恋人を奪われ、なぜか鞘白に助け出され、それで今、ここにいる。

(……好きってどういう意味? 先生が? 私を? 何で?)

 横断歩道を渡ろうとする人々が邪魔そうに由依たちを避けていく。その真ん中で立ちすくみ、由依はぽかんと口を開けて鞘白を見上げていた。

 見つめ合う二人の間を黒南風が吹き抜け、街路樹の葉をざわめかせてゆく。

 孤独な過去の記憶も投げつけられた別れの言葉も、葉擦れの音がかき消してしまう。

 由依はもう何もわからなくなって、子供みたいに頷いた。

「——は、はい」
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