エリート弁護士は生真面目秘書を溺愛して離さない
 ちくりと痛む胸を押さえて己にそう言い含めていると、デスクに頬杖をついた鞘白が由依を仰いだ。

「俺の予定の確認だが。次の休日はいつだ?」
「今週の土日です」

 妙なことを聞く、と目をぱちくりさせる。鞘白はシフト制ではないので土日が休日と決まっている。わざわざ確認する必要はないし、今まで聞かれたこともない。

「小鳥遊の休日は?」
「私も同じです」

 弁護士と秘書は同じ日程で休むに決まっている。本当にどうしてしまったんだこの人は、と首を捻ると、鞘白がすっと目を細めた。

「では次の土曜日、一緒にどこかに出かけないか」
「どうしてですか?」

 心の底から不思議そうな由依の返事に、鞘白が意地悪げに唇の端を吊り上げた。

「つれないな。俺が恋人とデートしたいからだ。悪いか?」
「はあ、デートを……ええっ!?」

 途端、昨夜の情景が眼裏に蘇って由依の頬がさっと朱に染まった。滑った手から、手帳がバサリとデスクに落ちる。

「あ、えっと、あの、やはり昨夜の件でしたらお断りしたいのですが……」
「受け付けない。俺は由依に交際の申込みをした、由依は申込みを承諾した。契約成立だ」
「契約書にサインした覚えはありませんが!?」
「双方の意思の合致があれば、書面を交わさなくとも契約は成立する。学部一年で習っただろ。そんな基本中の基本を忘れたのか?」
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