エリート弁護士は生真面目秘書を溺愛して離さない
 出来の悪い生徒を諭すように言われ、由依はぐっと唇を引き結ぶ。そんな契約は公序良俗に違反するので無効だとでも言いたかったが、それは滅多に抜いてはいけない伝家の宝刀だ。「全てを公序良俗違反で片付けたがる、法律を学びたての一年生か?」などと言われるのが目に見えている。

「ですが……その……」

 気弱に呟く由依に、鞘白がデスクの上で両手を組んだ。

「何か気に入らないことがあるのか。言ってくれれば直す」

 そう言って、床に目を落とす由依の顔を覗き込む。由依はちらと目だけを上げた。真顔の鞘白と視線がぶつかり、思わず息を詰める。美形の真剣な顔は心臓に悪い。

「き、気に入らないとかではないんです。ただ、軽はずみな言動は良くありません。こういうことはちゃんと考えないと」
「ちゃんと考えた結果、あの男はどうだった」
「うう……」

 ぐうの音も出ない。海千山千の敏腕弁護士相手に口先で勝つのは無理だった。

 由依はまた目を伏せ、指先で顎を摘む。窓から差し込む陽光に埃がきらめいているのを眺めながら、思案を巡らせた。

(先生は私を好きだと言うけれど、どこが気に入ったのだろう……? 唯一考えられるのは、秘書としてしっかりしているところ?)
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