エリート弁護士は生真面目秘書を溺愛して離さない
 それより他には考えられない。一人で大丈夫そうという理由で彼氏にフラれるくらいだ、しっかり者っぽさには少しばかり自信がある。一朝一夕の演技ではない。両親の離婚以降、ずっと身に染みついた振る舞いなのだ。

 ならば由依の打てる手は一つだった。

 ゆっくり顔を上げ、じぃっと鞘白を注視する。その整った顔に一切退く気配がないのを悟って、由依も覚悟を決めた。

「……わかりました。でも、行き先は私が決めてもいいですか?」
「構わない。どこにでも連れていく」
「なら——」

 由依は眦を決し、深く息を吸い込み、きっぱりと言い放った。

「遊園地で開催されている、しろうさたんコラボイベントに行きましょう」

 執務室に沈黙が落ちた。

「しろ、うさ……?」

 黙考した後、鞘白がわずかに目を見開く。由依は人差し指を立てて繰り返した。

「しろうさたんです。昔から人気の、白いうさぎのマスコットキャラクターです。ご存じないですか?」

 白くて丸い、のんびりした笑顔が可愛いうさぎのしろうさたんは、幼い頃から由依の大好きなキャラクターだった。仕事で疲れたとき、動画サイトでミニアニメを見たり公式SNSをチェックしたりして密かに癒されるのがほとんど唯一の趣味だ。子供っぽいから誰にも言えないでいたのだが、事ここに至っては打ち明けるしかない。
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