エリート弁護士は生真面目秘書を溺愛して離さない
 どういう意味かと問い返す前に手帳を差し出される。反射的に受け取って、由依は声もなく鞘白を見つめ返した。

 彼の背後の大きな窓には、薄雲の浮かんだ空と都会の街並みが広がっている。ほの明るい日差しが鞘白に注がれ、由依に向けられた端麗なかんばせには一片の翳りもない。

「いいぞ。小鳥遊の行きたいところへ行こう。楽しみだな」

 あっさり告げて、鞘白が口の端を緩める。その片笑みの柔らかさに、由依は手帳を握りしめた。
 初めてだった。こんなふうに、自分を受け止めてもらえたのは。
 心臓がどきんと音を立てて跳ね、とっさに手帳を強く胸元に押しつける。

(……軽率な行動はよくないのに。でもこれじゃまるで、先生が本当に私を……)

 由依は動揺を隠せぬまま、上ずる声で承諾した。

「わ、わかりました。ではチケットはこちらで手配しておきますね」
「俺は小鳥遊のやることは大抵可愛く思っているが、デートの準備を手配と言うのはやめろ」

 初夏の陽光に、鞘白の呆れたような苦笑いが滲んだ。
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