エリート弁護士は生真面目秘書を溺愛して離さない
 依頼人と相対して、こんなに心が揺さぶられるのは初めてだった。

 近くの机にボトルを置き、壱成は懸命に言葉を探す。

『自分を責めるな。結果として離婚ということになっても、それを選んだのは君の両親だ。君のせいじゃない』
『私のせいなの。私がよく考えなかったから……っ。全部黙っておけばよかったのに、余計なことを言ったの』

 湿った声色で自分を責める由依を、壱成は『違う』と遮った。

『君は絶対に悪くない。いいか? 君の抱いた最初の願いは間違いじゃない』

 由依の肩を掴み、なんとか顔を上げさせる。彼女の小さな顔の中で、涙に濡れた瞳がとろりとした光を含んで輝いていた。一つ瞬けば、目尻に雫が珠となって、すうっと頬を滑り落ちていく。

『間違いじゃ、ない?』

 色を失った唇がわななく。壱成は力強く頷いた。とっさに口をついた自分の言葉に、背を押される思いだった。

『……そうだ。ちゃんと頑張っている人に報われてほしいと願うのも、そういう人を守りたいと思うのも、間違いじゃない。その思いまで否定しないでくれ』

 由依はしばらくぴたりと口を閉ざして、壱成の言葉の意味に考えを巡らせているようだった。だがやがてこくりと頷いて、口元にかすかな笑みを滲ませる。

『うん……そうだったら、いいな』

 その声のか細さに、壱成は由依の肩を掴む手に力をこめた。
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