エリート弁護士は生真面目秘書を溺愛して離さない
 鞘白家は代々法曹を輩出している、界隈では有名な一族だった。だから壱成も司法試験を受けて弁護士になった。元々記憶力がよく集中力もあって、勉強に向いていたのだろう。予備試験にも司法試験にも何の苦労もなかった。

 それが当たり前だったから、なんのために弁護士になるのかなんて考えたこともなかった。ただ漠然と、自分の高いらしい能力を、世のために役立てるか、などと傲慢なことを考えていた。

 しかし今、目の前で弱々しく微笑う女の子を前にして——こういう人の、力になりたいと強く思った。

 月のない夜に、星の光をたった一つの寄る辺とするように。

 この刹那に壱成の道は定まった。この願いのために、自分は弁護士になろうと誓ったのだ。

 由依たちが帰ったあと、叔父は憂鬱そうに呟いた。

『あの子は苦労するだろうよ。母親を見たか、あんなに娘に辛くあたって。悪いのは浮気した父親なのに、それを知らせた娘が諸悪の根源だと思い込んじまってるんだな』

 執務机で書類をめくる。そこにあるのは、由依の父親が不倫をしている決定的な証拠の数々。

『なあ壱成』

 武雄が静かに壱成を見据えた。普段の軽薄さは影を隠し、そこには人生の先達としての落ち着きと思慮深さだけがあった。

 武雄はスーツの襟から弁護士バッジを外し、壱成に見せつける。
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