エリート弁護士は生真面目秘書を溺愛して離さない
『俺たちは神じゃない。何でも救ってやることはできない。あの娘を助けてやることもな。それでもこのバッジには結構な力があって、できることはたくさんある。慰謝料を確実に支払わせれば、あの娘は少なくとも高校に行ける。良い仕事をするのに必要なのは、何のために力を使うかってところだ。わかるか?』

 自由と正義を表すひまわりの真ん中に、公正と平等を象徴する天秤が描かれた金の記章。壱成は黙って頷いた。その答えは、すでに手に入れていた。

 とはいえ壱成は『いやお前は民事に向いてねえな!』の一言によりコーポレート部門へ回され、M&Aやら会社訴訟やらに忙殺される日々だ。これはこれでやりがいがあり、真面目な企業の困りごとを解決するのも悪くはないと考えていたところで——。

『本日付で鞘白先生の秘書を務めさせていただくことになりました。小鳥遊由依です。よろしくお願いいたします』

 新卒で入所してすぐに鞘白の元へ配属された由依は、緊張に顔をこわばらせていた。壱成の顔を見ても特に思うところはないようで平然としている。

 すぐに叔父に詰め寄ると、彼はへらへらと『いやあの子も民事には向いてねえからさ。依頼人一人ひとりに感情移入してたんじゃ、彼女の方が潰れちまう』と応じた。
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