エリート弁護士は生真面目秘書を溺愛して離さない
 それからさっと真面目な表情になり、

『面接で話したけどよ、彼女はあのときから全然変わってなさそうだったぜ。真面目で頑張り屋で、その分だけ生きづらそうだ。奨学金で国立大学の法学部まで出てさ、苦労したんだろうな。壱成、お前がちゃんと見ておいてやれよ』

 何もかもお見通しだとでもいうようにニッと笑って、壱成の肩を叩いた。

 しかし壱成は、再会当初から彼女を好きだったわけではない。しばらくはごく当たり前に秘書として見ていた。由依は優秀な秘書で、ともに過ごすほどに好感は募っていったが。

 壱成が気持ちを自覚したのは、民事担当の弁護士が急な体調不良で欠勤となり、依頼人との面談を壱成が代打で引き受けたときのこと。嫌な予感はしていた。案件は配偶者の不貞行為による協議離婚。由依の両親と同じだ。

 応接室で向かい合った依頼人は女性で、いたく傷ついているようだった。しかし鞘白の顔を見るとなぜかぽうっと頬を染めてもじもじし始める。

 またか——と壱成はうんざりした。

 これこそが壱成が民事部門に向いていない最大の理由だった。無駄に整った顔貌のせいで、一部の依頼人が急に態度を変えるのだ。

 こういうときには一切の優しさを見せないに限る。壱成が意識して冷ややかに話を切り出そうとしたとき、由依がすっと前へ出て、依頼人の近くに膝をついた。
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