エリート弁護士は生真面目秘書を溺愛して離さない
 そう固く心に決めて、壱成はずっと由依に接していたのだ。

 だというのに、と昨夜のことを思い返し、奥歯をぎりりと噛みしめる。

 あの稔とかいう男が由依にした許し難い行状は、壱成からすれば全く愚かとしか言いようがない。妹も同罪だ。なぜ同じ血が流れていてああも違う存在になったのか疑問に思う。

 由依の傷ついた顔に堪らなくなって、ついその手を引いて連れ去ってしまった。ずっと胸に秘めていた思いまで打ち明けて。

 ここまで来たら、手放すつもりは毛頭ない。由依は躊躇っているようだが、彼女は愛されるべき人間だとわからせてやる。

 手元のコーヒーカップに口をつけ、壱成はPCモニタに目線を投げる。先ほど調べた白うさぎのマスコットが呑気な笑顔を見せていた。

「ま、壱成と由依ちゃんの間に何があったかは知らねえが、一つだけ言っておく」

 武雄が椅子から立ち上がり、ビシッと壱成に指を突きつける。

「ウチは仕事に支障を出さなきゃ職場恋愛も大歓迎だ」
「あんたな……」

 脱力して甥の返事になってしまった壱成に、武雄がからからと笑った。

「と、いうのは冗談だ。愛も恋も好きにすればいいけどな。だがもう二度と、誰かに横から掻っ攫われるようなドジ踏むなよ。彼女がお前にとってどんな存在か、自分が一番よくわかってるだろ」

 笑い声を上げながらも、両目には剣呑な光が宿っている。壱成は椅子にもたれかかり、低く唸った。

「わかっている。……もう二度と他の男になど渡してやるものか」

 一度思いを封じた分、離した手の虚しさを知っている。自分ではなくとも由依は幸せになれる、などと物分かりよくはいられない。

 カップに注がれたコーヒーの、黒々とした水面が波立った。
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