エリート弁護士は生真面目秘書を溺愛して離さない
 すでに息も絶え絶えなのだ。これ以上距離を縮めようとすれば心臓が爆発してしまうに違いない。

 壱成はまた笑って由依から身を離し、車を発進させた。

「では行くか——由依」

 ずるい、と由依は唇を尖らせる。自分はさらりと名前で呼んでしまって、いちいち狼狽している由依が子供みたいではないか。

(でも、何だかご機嫌が良さそう。少しでも今日を楽しんでもらえるなら、私も嬉しい)

 窓の景色を見るともなしに眺めながら、由依は知らず微笑んでいた。

■ 

 しろうさたんのコラボイベントは、遊園地のイベントベースに描き下ろしイラストを用いたフォトスポットがあったり、アトラクションがコラボ仕様になっていたりするものだった。当然、限定グッズもある。

 由依は楽しくしろうさたんのパネルと写真を撮り、壱成と昼食を食べ、コラボアトラクションに乗った。

(……そこまでは、上手くできていたのに)

 それは園でも一番の絶叫系コースターで、三半規管の弱い由依は当然の帰結としてダウンした。

「本当にすみません……ごめんなさい……申し訳ないです……」

 ひとけのない休憩所のベンチに座り、何度も謝る由依の丸まった背中に優しい手が置かれた。

「あまり喋るな、今飲み物を買ってくるから」

 そう言い置いて自販機に向かう壱成には気遣いの色しかなくて、由依は息苦しくなる。
< 35 / 56 >

この作品をシェア

pagetop