エリート弁護士は生真面目秘書を溺愛して離さない
「本当に顔色が悪くなってきているぞ。救護室に行くか?」

 こちらの顔を心底心配そうに覗き込むのは壱成だった。由依は彼の肩に寄りかかるようにして、全体重を預けている。それなのに壱成は小揺るぎもせず、由依の額に浮いた冷や汗をハンカチで拭いてくれた。

「辛いなら帰ってもいいんだ。また来よう。俺にとっては由依が一番大切だから、無理をさせたくない」

 それは今まで由依の手に乗せられたことのない慈しみだった。

 当たり前みたいに差し出される愛情が、熾火となってじんわり胸を温めていく。

 由依は確かに軽んじられていた。けれどそれは由依自身が無価値だったからではないのだと、そう信じさせてくれる気がした。

 由依は壱成にもたれたまま、しばらく言葉の意味を噛みしめる。そうしてゆるゆると首を振った。

「本当に、平気です。でも、しばらくこのままでいさせてください」
「……ああ、わかった。好きなだけそうしていろ」

 壱成が眦を緩め、由依の髪を優しく撫でる。温かな手の気持ちよさに由依は瞼を下ろした。

 こんなふうに彼が注いでくれる、優しい思いを無駄にはしたくなかった。

 チチッとどこかで燕が鳴いている。新たな季節の到来を告げるその声が、安らぐ心に芽生えた決意を知らせるようで、由依はそっとささめいた。

「私も壱成さんのことを知りたいです。好きなものとか、苦手なこととか」
「俺の?」
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