エリート弁護士は生真面目秘書を溺愛して離さない
 ぺらぺら話し始めてはたと口を閉ざす。多くの大企業と顧問契約を結び、日々大量の案件が持ち込まれ、相談料が一時間あたり八万円もするこの男が、秘書の誕生日などに興味あるわけない。

 しかし鞘白は片眉を上げ、何食わぬ顔で応じた。

「知っている。他の秘書たちが話していた。プレゼントまでもらうとは相当慕われているんだな」
「皆さん良い方ばかりですから……というか」

 由依は目を瞬かせる。

「先生、秘書の話を聞いていらっしゃるんですね。そんなことにはご興味ないかと思っていました」
「いつも聞き耳を立てているわけじゃない。今回は小鳥遊の名前が出ていたから自然と聞こえてきた」

 つまり自分の秘書のことは気にかけているらしい。意外に思っていると、鞘白はカップを置き、机に両肘をついて珍しいことににやりと笑った。

「デートだとも聞いた。今日はずいぶん……」

 言いかけて、すっと笑みを消す。双眸が眩しげに細められた。

「きちんとした格好をしている。ドレスコードのあるレストランにでも行くのか」
「はい。駅前で待ち合わせて、それから一緒にホテルの展望レストランに。彼が予約してくれているらしいので」

 由依の説明を鞘白は受け流すように聞いている。さすがに喋り過ぎたと焦っていれば、鞘白がふっと顔を上げた。妙に真面目な表情だった。

「気をつけて行けよ。変な男についていくんじゃないぞ」
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