エリート弁護士は生真面目秘書を溺愛して離さない
 慌てふためいていると、壱成がくっと噴き出す。悪戯が成功したような晴れやかな笑顔で、ぽんと頭を撫でられた。

「冗談だ。だいぶ顔色が良くなってきたな。調子はどうだ?」
「あ、ああ……言われてみると、もう大丈夫そうです」

 由依の心を和ませる戯れだったらしい。確かに吐き気や頭痛は和らぎ、もう歩けそうだった。

 壱成がガイドマップを引っ張り出し、楽しげに眺め始める。

「次はどこへ行きたい? グッズショップか」

 イベントに慣れてきたようだ。弊所のエース弁護士を悪徳に染めてしまった……と妙な罪悪感を覚えながらも、由依はぼそっと呟く。

「グッズは買ったことありません」

 それは由依には縁のないものだった。しろうさたんを好きということは周囲に秘密にしていたからだ。使えないのだから買う意味がない。

 壱成は不審そうに眉をひそめる。

「家に置けるものならいいんじゃないか?」

 由依は口をつぐんだ。稔と付き合っていた頃には、彼が家にやって来たときにごまかしがきかないので買えなかった。今思えば、趣味の一つも共有できない仲だったのだ。

(……でも、壱成さんには思ったことをそのまま伝えてもいいんだから)

 由依は小さく、それでもはっきりと頷いた。

「そうですね。見に行ってもいいですか?」

 壱成の愁眉が開かれる。「ああ」と本当に嬉しそうに片笑んで立ち上がり、由依の手を取った。

 由依も躊躇いなく、差し出された手を握り返せた。
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