エリート弁護士は生真面目秘書を溺愛して離さない
 先ほどからちらちらと向けられる視線が痛い。カジュアルな服に身を包んでいるから却って素材の良さが際立って、女性客が頬を染めて目を奪われている。近くを通り過ぎた女子高生らしき二人組が「ねぇ、あの人超かっこよくない?」などと囁き合っているのが聞こえてきた。

(かっこいいけれども! 人の見た目をあれこれ言って態度に出すのはどうかと思いますよ!)

 クライアントがときめくので民事部門を担当できないと知っている由依は心中で憤ったが、当の本人は慣れっこなのか平気そうにぬいぐるみを手にする。

「迷っているなら俺が買おう」
「いえ、それは悪いので! 買うなら私が買います」

 今にも財布を取り出しそうな迷いのなさに、由依は素早く壱成の手からぬいぐるみを奪い取った。途端、ふわふわの毛並みに腰砕けになってしまう。

「か、可愛い〜……買います……」
「ああ、可愛いな」

 壱成も真顔で頷いている。由依は勢い込んで、しろうさたんの両手をぱたぱたさせて見せびらかした。

「壱成さんにもおわかりですか、この可愛さが!」
「ふっ……わかったから、あんまり可愛いことをするな」
「本当にいいですよね。この純粋な目! 癒しの笑顔! 短い手足! どこを取っても可愛いでできてる!」
「そうだな、びっくりするくらい可愛いよ。俺の恋人は」

 しみじみ呟く壱成に、由依はぴたりと動きを止めた。
< 43 / 56 >

この作品をシェア

pagetop