エリート弁護士は生真面目秘書を溺愛して離さない
『妊娠の話が嘘だったらしいんだ。それに他にも男がいたみたいでさ。俺の部屋に別の男を引っ張り込んでたんだぜ? あり得ねえだろ。もう捨ててやったよ、あんなクソ女』
「ちょ、ちょっと待ってよ」

 わっと浴びせかけられる情報の洪水に混乱してきた。由依はズキズキ痛み出したこめかみを押さえる。

 どうも話を整理すると、愛衣は妊娠を盾に稔に結婚を迫ったが、それは嘘だったらしい。挙句に他の男性と浮気をしていたのが稔にバレ、二人は破局した……ということのようだ。

『やっぱり俺には由依しかいないんだよ。お前がどれだけ良い女だったかって、別れて初めてわかったんだ。ごめん、俺が悪かったよ。もう一度やり直せないか』

 憐れっぽい声がスマホから響く。由依が立ち尽くしたままでいると、さらに声音は湿り気を帯びた。

『由依はしっかりしてるし、浮気もしないし、俺の言うことに反対しないし、本当に最高の女だったんだ。俺たち、相性バッチリだっただろ? 俺にはお前だけだ。信じてくれ、もう由依を離したりしないよ』
「稔……」

 由依は唇を噛みしめる。浮気をしないのは人として当然だし、相性バッチリだったのは全て由依が好みを合わせていたからだ。自分を殺して、稔の最高の相手を演じていたからだ。そうするのが習い性になっていたと、由依はもう理解している。
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