エリート弁護士は生真面目秘書を溺愛して離さない
 深く息を吸い込み、ぐっと顔を上げる。見上げた先、夜空の真ん中に青白い一等星が瞬いている。その眩さが目を射貫いて、由依を奮い立たせてくれた。

「いくら言われてもやり直せない。私たちは終わったの。それに……」

 ——それに。

 声より早く、脳裏をよぎった壱成の面影に息を呑んだ。

 由依を助け出してくれて、ありのままを受け止めてくれて、揺らがず誠実に向き合ってくれた人。由依が心の在処を思い出せるくらい、この上なく大切に扱ってくれた人。

 急に胸にこみ上げてくるものがあって、星影がぼやけた。

 やっとわかった。あれだけ言葉を尽くされて、態度で示されて、今ようやく自分の気持ちを自覚できた。

 ここで答えられなかったら一生後悔する。そんな予感に突き動かされ、由依はしゃんと背筋を伸ばす。

「今の私には好きな人がいるの。だから、稔とは付き合えない」

 きっぱりと言い切れば、しばらくの間沈黙が流れた。視界を曇らせる涙を拭おうと、由依は何度も瞬きを繰り返す。

 程なくして『何言ってんだ?』と嘲るような息遣いがスマホを小さく揺るがした。

『好きな人? あの男か? お前の担当弁護士だっけ、愛衣から聞いたよ』

 回線の向こう、稔の声が卑しく歪む。鼓膜をぐさりと刺されるようで、由依は顔を歪めた。
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