エリート弁護士は生真面目秘書を溺愛して離さない
『相当優秀らしいじゃん。家も有名なんだって? きっと稼いでるんだろうな。でもよく考えてみろよ。そんな奴が由依を相手にするか? 遊びに決まってんだろ」
「やめてよ」
『騙されてるんだって。俺はそんなことないぜ? 由依だけを大事にする。あの男は由依が自分の部下だから優しくしてるだけだ。どうせすぐ飽きられて捨てられるさ』
「私の好きな人のことを悪く言わないで!」

 叫んだ瞬間、手のひらからスマホが取り上げられた。と同時に両腕に柔らかなものが押しつけられ、由依は思わずそれを抱き抱える。月明かりに照らされ、のどかな笑顔を見せているのはしろうさたんだった。

「——山内稔だな。誰の許可を得て由依と話している」

 由依のスマホを奪い、地を這うような低声で応じるのは壱成。深い皺が眉間に刻まれ、見開かれた双眸には物騒な光が宿っている。

 相当騒いでいるのか、稔の大声が由依の元まで聞こえてきた。

『お前、由依を騙してるらしいな! すぐに由依と別れろ! あいつには俺しかいねえんだよっ』

 自分勝手な言い草に不快感が募る。もはや由依には一欠片も稔への想いは残っていなかった。

 壱成が、こちらの背筋をぞくりとさせるほど冷淡なため息をつく。それから冴え冴えとした無表情で電話口の向こうに吐き捨てた。
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