エリート弁護士は生真面目秘書を溺愛して離さない
 駐車場の照明が窓から忍び入り、壱成の横顔を照らしつけている。彼は息を潜め、耳をこちらに傾けて由依の返事を待っているようだった。

 由依は腕のしろうさたんを抱き込み、蚊の鳴くような声で答えた。

「はい、壱成さんが好きです……」

 次の瞬間ぐいと腕を引かれたかと思うと、由依は壱成に抱きしめられていた。

 背に回された手のひらが熱い。由依を閉じ込める腕の力は強くて、どこにも逃がすまいとする意思が伝わってくる。

 はあ、と満たされたような吐息が耳を掠めて体が震える。熱情を帯びた声が耳朶を撫でた。

「このまま由依を帰したくない。俺の手で甘やかして、どろどろにして、何も考えられなくしてやりたい。こんな可愛いことを言われておとなしく帰せるほど、俺はできた男じゃないんだ」

 縋るように告げられ、胸の奥がきゅんと疼く。壱成に触れられたところから体が溶けてしまいそうだった。頭は痺れたようになって何も上手に考えられない。

 好きな人に求められるというだけのことが、こんなにも胸をいっぱいにするなんて知らなかった。今このときより他に、幸せな瞬間なんて訪れないんじゃないかと怖いくらいに。

 由依は夢見心地で頷き、壱成の胸板に頭を預けて囁いた。

「私も……帰りたくないです」

 由依を抱く腕の力が強くなる。あ、と思っているうちに顔を上向かせられ、優しく口を塞がれた。

「んんっ」
< 50 / 56 >

この作品をシェア

pagetop