エリート弁護士は生真面目秘書を溺愛して離さない
 熱い感触に目を瞑れば、由依の唇が割り開かれる。舌で上顎をなぞられると甘い痺れが背筋を伝い、知らず壱成の腕に縋っていた。そうすればますます強く抱き込まれ、角度を変えてより深く吐息が交わる。思考も抵抗も何もかも、あまねく全てを奪い尽くすような口づけに由依は酔った。どんな玉酒よりも染み通る甘露だった。

「……これじゃ全然足りないな。もっと由依が欲しい。心も体も、全部俺のものにしたい」

 やがて唇が離され、壱成が荒い息とともに呟いた。名残惜しむように触れるだけのキスが落とされる。くらくらしながら仰くと、恐ろしいほど真剣な顔をした壱成が、由依の頬を両手で押し包んだ。

「俺の家に連れ帰っても、いいか?」

 熱情の燻る壱成の瞳から、由依は目を離せない。こういうことは軽々に決めてはいけない。首肯すれば後には戻れないし、この先どうなるかわかっている。

 それでも震える手で己の唇に触れ、由依はこくんと頷いた。
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