エリート弁護士は生真面目秘書を溺愛して離さない


 壱成の自宅は都心に程近い高級レジデンスで、大きな窓から遥か下に見える夜景が美しかった。だがそんなを夜色を楽しむ余裕もなく、壱成の部屋に入った途端に口づけが再開され、そのままもつれ合うように寝室へ連れ込まれる。

 由依の体は大きなベッドの上に横たえられた。寝室には月影が薄っすら差し込み、由依を押し倒した壱成の切羽詰まったような表情がぼんやりと見えた。

「由依、好きだ。愛してる……ずっとこうできる日を待っていた」

 譫言のように呟いて、壱成は由依に口づける。その甘さを受け止めながら由依は口を開いた。一つだけ聞いておかなければならないことがあった。

「私も……壱成さんが好きです。でも、どうしてここまで、大切にしてくださるんですか」

 息も絶え絶えな問いかけに、壱成がはっと息を呑む。由依の体を暴こうとしていた手を止め、真面目な面持ちでこちらを見下ろした。

 腰の奥の疼きを堪え、由依はできるだけ目に力を込めてじっと見上げる。長らく気になっていたのだ。由依は特別綺麗なわけでも、頭がいいわけでもない。由依よりも優れた女性はいくらでもいる。それなのにどうして自分だったのか。

 壱成の唇に、切なげな笑みがよぎった。

「——これは教えるか迷ったんだが」

 おもむろに由依の前髪を撫で、秘密を告げるように囁いた。

「俺の弁護士としての在り方を決めたのが由依だからだ」

 思ってもみない答えに、由依は目を見開く。

「私が……?」

 いくら過去をたぐってもそんな記憶はない。こんなに印象に残る人、一度会えば忘れようもない。よほど由依が動揺していない限り。

 そこまで考えたとき、頭の端に引っかかるものがあってあっと小さく叫んだ。

「待ってください、もしやあのときの……」

 絶句する由依に、壱成が続きを引き取る。
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