この悲しみも。……きっといつかは消える

第1話

 昨日の午後から降りだした雨は、翌日の明け方になっても降り続いていた。


 現在の時刻が何時なのかはわからなかったが、部屋の中はまだ暗い。
 隣に眠っていた夫スチュワートが動いた気配に、ミルドレッドも目を覚ました。



「ごめんねミリー、起こしちゃったね」

 そう言いながらスチュワートはさっさとベッドから出て、ガウンを羽織った。
 まだ完全には目覚めていないミルドレッドは、ぼんやりとした表情でベルトを結んでいる彼を見上げた。

 すると、その視線に応えるかのようにスチュワートはベッドに上がり、妻の下腹部に掌を当てた。


「赤ちゃん、君はお父様の代わりに、お母様をしっかり守るんだ」

「……スチュー?どうしたの……」

「カールが来たらしい。
 急ぎなんだろう。
 話を聞いてくるよ、このまま君は寝てるといい。
 ……何事もなければ、直ぐ戻るからね」


 そう言って微笑んだスチュワートは、ミルドレッドの唇に軽く口付けて、手を振りながら夫婦の寝室を出ていった。


 カールトンはレイウッド領主であるスチュワートの従兄に当たるが、領内の実務の片腕として、彼を支えてくれている。

 まだ夜も明けきらぬこんな時間に、カールトンが訪ねてくること等初めてで、わたしもと起き上がりかけたミルドレッドをキスと微笑みで、優しく制したスチュワートだった。
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