この悲しみも。……きっといつかは消える
「レナードの愛人と、もうレイウッドには戻らないと約束したそうだ。
 だがレナードはミリーに拘って、他の娘じゃ駄目だと言う。
 それで死んだことにすればと、思ったんだろう。
 さっきは、お前に焚き付けたと責めるように言ったが、初めは俺が貴族名鑑を渡したからだ。
 その後もヒントを与えた。
 ミリーは生きる気力も考える体力も失くしていた。
 あれを読んで、ただ眺めているだけなのか、何かを読み取ろうとするのか、知りたかったのもあるが、簡単に手放そうとした自分の生まれた場所の重みを分かって貰いたかった」



 それを聞いて、イアンはしばらく俯いて考え込んでいたが。
 やがて、何かを決心したように頭を上げた。



「俺は彼女が、生きる力を取り戻した瞬間を見た。
 亡くなったスチュワートの名誉を、自分が取り戻すと決心した瞬間だ。
 その時に、このひとから次に愛されるのは、俺でありたいと思った」

「……」
 
「3年以内だな? それだけあれば根回しは出来る。
 金だけ積んでも、昔と違って今は簡単には爵位は買えないようになってるが、何とかする。
 それまでは、お願いします、義兄上」

「……義兄上と、まだ呼ぶな」



     ◇◇◇



 じゃあ、また明日と、イアンは立ち上がった。
 ウィンガム伯爵様が自ら、エントランスまで見送ってくれるらしいので、ふたりで廊下を歩きだした。

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