この悲しみも。……きっといつかは消える
 イアンは最初の手紙を貰ってから気になっていたことを、ジャーヴィスに尋ねた。
 この食えない先輩が素直に話してくれるかどうかは、分からなかったが、ミルドレッドの前では出さない方が良い話なので、帰る今になった。



「レイウッドに、誰か居るのか?」

「……どうして、そう思う?」

「彼女が実家に帰ったことを、アダムスの連中が気付くのが遅過ぎる。
 翌日の午後に早馬が到着したのなら、居ないことに気付いたのは、夜中を過ぎて……夜が明ける前だ」

「……」

「彼女の出奔を助けたのは、レナードの愛人だけじゃないだろ?」

「ミリーの協力者がアダムス邸に居たかと、聞きたいのか?」

「いや、彼女の、ではなくて。
 ヴィスの、協力者がだよ。
 妹には内緒の内通者」

「……どうかな」

「厳冬のヴィス会長は、ひとを使うのが上手い。
 俺達、生徒会役員は良く働かされたよ。
 人使いが荒い会長の長所は、問題が起これば矢面に立ってくれるところ。
 称賛されたら、手柄を独り占めしないところ。
 ただし、本当に良く働かされた」

「良く働かされたと、二度も言うな。
 褒められていると、勘違いする」


 ジャーヴィスが軽口で誤魔化せば、イアンは笑って、それ以上は続けなかった。
 

 確かに、普通ならミルドレッドの出奔はもっと早くに発覚していただろう。
 当日の夜に気付かれたなら、馬を出されて馬車は直ぐに追い付かれ、ミルドレッドは連れ戻されていた。
 ……彼女の協力が無ければ。



 その事に誰かが気付く前に。
 彼女をウィンガムへ引き取らなければならない。

 それが協力を了承してくれた彼女の願いだから。

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