この悲しみも。……きっといつかは消える
 そんな奴等が仲違いをした。
 ハンナはそれが嬉しいらしい。


「レナード様は客室で寝るようになりましたよね。
 あの女は、いつ追い出されるんでしょうね?
 居なくなったら、奥様は帰って来てくれますよね?」

「わたしには何も分からないの」


 サリーが居なくなったくらいでは、ミルドレッド様は帰ってこないとは、ユリアナはハンナには教える気はない。
 ハンナのことだから他の使用人達に、ユリアナから聞いたと、触れ回りそうだ。


 ハンナが自分をぼんやりした女だと思ってくれてもいい。
 そう周囲から思われるように、行動してきた。
 
 奥様から命じられたことを、ただ忠実に守るだけの女。
 だから、彼女の証言は信じて貰えた。



「奥様から食欲がないからとスープを作るように命じられました。
 出来たのでお持ちして、お部屋へ参りましたら、もう要らない、眠るから朝まで来ないでと言われたのです。
 けれど夜中……明ける前に胸騒ぎがして、お部屋を覗いたら、奥様がいらっしゃらなかったんです」

「返事をしたのは、確かに奥様の声だったの?」


 侍女長のケイトに尋ねられたが、惚けて見せた。


「そう言われると、小さなお声でしたので自信はありませんが、その時は、奥様から言われたと。
 そう信じました。
 すみません、申し訳ありません」


 ユリアナがそう言って泣いて謝ると、ケイトはそれ以上は追及しなかった。
 上手い具合に、サリーが奥様を装って、愚鈍な侍女を騙したと思われているようだ。




「君からは、何も仕掛けなくて良いんだよ。
 ただ、いざと言う時、ミルドレッドのことを助けてくれればいいんだ」


 旦那様と奥様の披露宴で声をかけてきたウィンガム伯爵。

 ミルドレッドの専属侍女のユリアナが、彼の協力者だ。


 
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