この悲しみも。……きっといつかは消える
 いつもは凛々しいスチュワートの顔も嬉しそうに緩んで見えた。
 誰もがふたりをお似合いだと褒めそやしていた。
 ただひとり、ユリアナの母を除いて。


 披露宴会場から離れた場所で、ユリアナは母に掴まった。


「男性は癒して欲しいのよ。
 貴女には料理の腕も、賢さもある。
 あんな顔が綺麗なだけの奥様は、いずれ飽きられるわ。
 うまく行けば、貴女が御手付きになって、次の……」

「馬鹿なことを仰らないでください!
 御手付きにって、お母様は娘に日陰の身になれと?」


 確かに母には料理の腕は鍛えられた。
 王都の女子高等学院には進学出来なかったが、それなりの家庭教師は付けて貰えた。
 だが、それが何になる? 
 本家の当主の妻が、厨房に立つことはない。
 侍女風情の教養等、注目されない。
 
 
 母を振り切って、連れ込まれた部屋を出ると、背後から声をかけられた。


 ミルドレッド様の兄だと挨拶していた男性だった。
 さすがに、あの若奥様のお兄様だ。
 美しいひとだ。


「賢い君を見込んで頼みがあるんだ。
 私の協力者に、なってくれないだろうか?」




 その日から。
 ユリアナはウィンガムへ行ける日を待っている。


 危ない目に遇わせたくない、何も仕掛けなくていいと、ジャーヴィス様は仰ったけれど。


 独り寝を続けるレナードに、もう一人の目障りな女を。
 ミルドレッド様を傷付けた『馬鹿男』に、『安物買いのローラ』を近づけさせるのはどうかしら?


 その方法を考えながら廊下を歩くユリアナは、楽しそうに笑っていた。
 

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