この悲しみも。……きっといつかは消える
 強盗に……平民に嫁がされたスチュワートの母はウィラードを残して亡くなっていた。
 彼はそれを兄から知らされたのだろうか。
 天涯孤独の身になった兄を心配して、アダムスに引き取る算段を父に相談しただろう。
 だが、父は拒否をした。
 他人である嫁のわたしには、あんなに優しい義父だったのに。


 ミルドレッドは、内心の動揺を悟られないように努めていたが、隣に座ったジャーヴィスが手を握ってくれた。
 兄の手が温かくて、心が救われた気がした。


 ひとりぼっちになってしまったウィラード。
 彼の手を、こうしてスチュワートが握ったのなら。
 ウィラードも、少しは救われたと思いたい。



「……犯人は捕まったのですか?」

 ジャーヴィスの問いに、スミスは首を振る。


「いいえ……でも噂はあって、恐らくその招待した貴族が雇ったのだろうと」

「持参させていた証文を奪って、口封じか……」


 ジャーヴィスの呟きに、スミスが頷いた。


「他の借金相手も契約したのはマイケル・フェルドン本人だからとか言って踏み倒し、店の金庫にあった現金は番頭が持ち逃げ……
 ウィラードに残されたのは、自宅に置いていた少額だけでした」


 大人達が寄って集って、ウィラード・フェルドンの財産を奪ったのだ。

< 109 / 229 >

この作品をシェア

pagetop