この悲しみも。……きっといつかは消える
 控え目ないい子?
 ……ミルドレッドが知るローラ・フェルドンは、控え目ないい子には思えなかった。
 スチュワートの死を伝えられても、彼へのお悔やみ等も口にしないのに、妻に援助の継続を求めてきた。

 ウィラードの前では、自分を偽っていたのだろうか。
 それとも、ミルドレッド自身がレナードに注意したように、我が子の為なら形振り構わないと図々しい女を装ったのか。



 時間ぎりぎりまでありがとうございましたと、3人でスミスに御礼を言うと、彼は恐縮していた。
 それから最後に、ウィラードから聞いたローラの勤務先を教えてくれた。

 3年も前の話だし、子供が生まれたのなら辞めているかもしれませんよ、の言葉と共に。
 多分、ミルドレッドが同行していたから、この情報を教えてくれたのだろう。




 イアンは辻馬車で北校まで来ていたので、その勤務先への移動は、マーチ家の馬車に3人で乗り込んだ。



「ローラの勤務先が、『エリン・マッカートニー』とは、驚きましたね」

「ウィラードからしても、ちょっとした自慢だったから、スミスに教えたんだな」

「……アダムス夫人は、彼女の店に行ったことはありますか?」



『エリン・マッカートニー』は、現在王都で1、2を争うドレス専門店だ。
 ジャーヴィスと会話をしていたイアンが話を振ってきたので、思いに耽っていたミルドレッドは焦って返事をした。


「わたくしは行ったことはないのですが、夫から王都のお土産として、マッカートニーの長手袋を……」


 スチュワートが去年マッカートニーの手袋をプレゼントしてくれた日を、ミルドレッドは思い出していた。
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