この悲しみも。……きっといつかは消える
 ジャーヴィスは自分をからかうイアンに向かって、そう言うお前は如何に女性とのお付き合いが多いか知れましたと、言うのは止めた。

 見るからに落ち込んでいるミルドレッドを少しでも笑わせようと、イアンが冗談を口にしたことに、気が付いたからだ。



「レディたるもの、大口を開けて物を食べているところを人様にお見せするのはエレガントではない、がエリンのモットーらしいですから、自宅を兼ねてるマッカートニーの店で昼食を取っているんです」

「そんな、お休み中のところにお邪魔するのは……」


 ジャーヴィスが何も言わないので、ミルドレッドが代わりに遠慮の言葉を口にすると、イアンは今日一番の笑顔を彼女に見せた。


「この時間にレディマッカートニーが、予約客じゃない大事な上客の対応をするのも、有名な話です。
 今日、彼女が誰とも会っていないことを、我々は祈りましょう」


 

 案の定、南区にある『エリン・マッカートニー』本店の扉は閉められていたが、呼び鈴に応えて現れた男性は来訪した3人を見て、扉を開放した。


 各々の名を答えると、店内へ招き入れ、少々お待ちくださいませと丁寧に言い、踵を返した。
 休み時間なのに、門前払いはされなかったようだ。
 しばらくすると、若く美しい女性が現れてラウンジへ案内された。
 そこで3人は、高価なカップに注がれた珍しい赤色のお茶と焼き菓子を振る舞われて、エリン・マッカートニーが現れるのを待った。


< 115 / 229 >

この作品をシェア

pagetop