この悲しみも。……きっといつかは消える
 それで取り敢えずの挨拶は済んだのか、エリンは今度はミルドレッドの方に向き直った。



「レイウッド伯爵様の……お聞き致しました。
 この度はお悔やみ申し上げます。
 とても、とても、素晴らしいお人柄の御方でした」


 ジャーヴィスに向けた、華やかな笑顔を消して。
 ミルドレッドに、夫へのお悔やみの言葉を他人が伝えてくれたのは、彼女が初めてだった……
 それも敬意と哀しみを込めて。



 もしかしたら、エリンが喪服ではないが黒いドレス姿なのは、ミルドレッドを思い量って、着替えて来てくれたのかもしれない。
 実際、エリンの唇には紅は引かれていない。



「……ご丁寧にありがとうございます。
 わたくしの方こそ、主人がお世話になりましたのに、今までご挨拶にお伺いもせず、ご無礼致しました」


 ミルドレッドがお悔やみのお礼を返すと、エリンは何か言い掛け、一瞬唇を噛んだように見えた。
 そして。


「伯爵様が次に王都へ来られた時に、お渡ししなくてはならないものがあったんです。
 奥様にお渡ししても、よろしいでしょうか?」

「主人に渡すものですか?」


< 117 / 229 >

この作品をシェア

pagetop